2015年10月5日月曜日

ロシア主導の国連軍が米国製テロ組織を退治する?


田中宇の国際ニュース解説 無料版 2015年9月24日 


http://tanakanews.com/

筆者(田中宇)への連絡は
http://tanakanews.com/sendmail.htm

田中宇:ロシア主導の国連軍が米国製テロ組織を退治する?




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★ロシア主導の国連軍が米国製テロ組織を退治する?
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 9月28日、国連総会で、ロシアのプーチン大統領の演説が予定されている。
この演説でプーチンは、シリアとイラクで拡大している「イスラム国(ISIS)」
やアルカイダ系の「アルヌスラ戦線」など、スンニ派イスラム教徒のテロ組織を
掃討する国際軍を編成することを提案する予定と報じられている。

http://www.bbc.com/news/world-europe-34330151
What is Putin's end game in Syria?

http://www.washingtontimes.com/news/2015/sep/11/russia-calls-world-back-syrian-military/
Russia calls on world to back Syrian military

 ロシアはすでに、8月末からシリアの地中海岸のラタキア周辺に2千人規模
の自国軍を派遣し、ラタキアの飛行場を拡大し、迎撃ミサイルを配備して、ロ
シアの戦闘機や輸送機が離発着できるようにしている。ラタキアには冷戦時代
から、ロシア海軍の基地が置かれている。ロシア軍のシリア派遣は、ISIS
に負けそうになっているアサド大統領のシリア政府軍をテコ入れするためで、
アサド政権はロシアの派兵を歓迎している。

http://www.telesurtv.net/english/news/Russia-to-Deploy-2000-Military-Personnel-to-Syria-20150921-0037.html
Russia to Deploy 2,000 Military Personnel to Syria

http://tanakanews.com/150904syria.htm
シリア内戦を仲裁する露イラン

 国連総会でのプーチンの提案は、シリアに派遣されているロシア軍に国連軍
としての資格を付与するとともに、ロシア以外の諸国がロシアと同様の立場
(親アサド)でシリアに派兵したり補給支援し、国連の多国籍軍としてISIS
やアルヌスラを退治する戦争を開始することを、国連安保理で決議しようとす
るものだ。ロシアは現在、輪番制になっている安保理の議長国であり、根回し
がやりやすい。毎年9月に行われている国連総会へのプーチンの出席は10年
ぶりで、プーチンがこの提案を重視していることがうかがえる。

http://www.themoscowtimes.com/news/article/putin-plans-to-attend-un-general-assembly-for-first-time-in-10-years/529031.html
Putin Plans to Attend UN General Assembly For First Time in 10 Years

 プーチンの提案は、安保理で可決されない可能性も高い。米国は以前から、
ISISの掃討を目標として掲げる一方で、アサド政権の転覆も目標としてき
た。アサド政権のシリア政府軍によるISISとの戦いを支援することで
ISISを掃討しようとするプーチン案は、アサド政権を強化することであり、
米国にとって受け入れがたい。米国が安保理で拒否権を発動し、プーチンの提
案を葬り去る可能性がある。この件を分析した記事の中には、米国が拒否権を
発動するため、プーチンは国連総会に3日間出席する予定を1日に短縮し、
怒って早々に帰国するだろうと予測するものもある。

http://foreignpolicy.com/2015/09/23/u-s-stonewalls-putins-anti-terror-push-at-the-united-nations/
U.S. Stonewalls Putin's 'Anti-Terror' Push at the United Nations

 とはいえ、米国がこの件で必ず拒否権を発動するとは限らない。私が見ると
ころ、米国が反対(拒否権発動)でなく棄権し、プーチンの提案が安保理で可
決される可能性が日に日に高まっている。米国のケリー国務長官は、数日前ま
で、ロシアのシリア派兵を、アサドの延命に手を貸していると批判していたが、
9月22日に態度を転換し、ロシアのシリア派兵はISISと戦う米軍を支援
する意味で歓迎だと言い出した。米国は依然、アサド打倒を目標として掲げる
が、当面、ISISが掃討されるまでは、ロシアがアサドを支援してISIS
を退治することを容認しよう、というのがケリーら米政府の新たな態度になっ
ている。事態は流動的だ。米政府は、プーチン提案への賛否について、まだ
何も表明していない。

http://en.mehrnews.com/news/110401/Russia-strengthens-positions-in-search-of-solution-for-Syria
Russia strengthens positions in search of solution for Syria

http://www.foxnews.com/politics/2015/09/17/us-plans-to-accept-russia-offer-to-join-military-talks-on-syria/
US plans to accept Russia offer to join military talks on Syria

http://www.ft.com/cms/s/0/2d4d41cc-615c-11e5-a28b-50226830d644.html
US changes tone on Russian weapons in Syria

 ISISは、イラク駐留中の米軍によって涵養されたテロ組織だ。米軍は、
ISISを空爆する作戦をやりつつも、ISISの拠点だとわかっている場所
への空爆を控えたり、イラク軍と戦うISISに米軍機が武器や食料を投下し
てやったりして、戦うふりをしてISISを強化してきた。米軍は、露軍の駐
留に猛反対しても不思議でない。

http://tanakanews.com/150604isis.htm
わざとイスラム国に負ける米軍

http://tanakanews.com/150308isis.php
露呈するISISのインチキさ

http://www.presstv.ir/Detail/2015/09/13/429009/US-Russia-Daesh-Takfiri-Syria-Iraq-Lavrov
Lavrov suspicious about US motive in fighting Daesh

 しかし最近、露軍駐留に対する米軍内の意見が「歓迎」の方向になっている。
露軍が空爆するなら、米軍がISISを空爆する(ふりをする)必要がなく
なって良いし、露軍がISISとの戦いで苦戦するほど、ソ連崩壊の一因とな
った1980年代のソ連軍のアフガニスタン占領と同様の重荷をロシアに背負
わせ、プーチンのロシアが自滅していく流れになるので歓迎だ、という理由だ。
国務省も国防総省も、ロシアにやらせてみたら良いじゃないかという姿勢で、
米国がプーチン提案に反対しない可能性も高いと考えられる。

http://www.thedailybeast.com/articles/2015/09/21/russia-to-start-bombing-in-syria-asap.html
Russia to Start Bombing in Syria ASAP

 国連安保理でプーチンの提案が可決されると、それは戦後の国連の創設以来
の大転換となる。国連を創設した米国は、もともと米英仏と露中が安保理常任
理事国として並び立つ「多極型」の国際秩序を戦後の覇権体制として考えてい
たが、国連創設後間もなく冷戦が激化し、米英仏と露中が対決して安保理は何
も決められない状態になった。安保理で重要な提案をするのは米国だけで、露
中は自分たちの利益に反しない場合だけ賛成し、利益に反するときは反対(拒
否権発動)する受動的な態度を続けた。

http://tanakanews.com/091004hegemony.php
多極化の本質を考える

http://tanakanews.com/081216MGI.htm
オバマの多極型世界政府案

 冷戦終結後も、この態勢が続いたが、01年の911事件後、米国の世界戦
略はどんどん好戦的、過激になり、一線を越えて頓珍漢な水準にまで達してい
る。たとえばシリアに関して米国は、存在しない架空の「穏健派イスラム教ス
ンニ派武装勢力」を支援してISISとシリア政府軍との2正面内戦を戦わせ
る策をとっている。昨年来、穏健派勢力が存在せず架空であることが露呈する
と、米議会は、5億ドルという巨額資金をかけて穏健派勢力を募集して軍事訓
練する法律を作って施行したが、集まった穏健派は数十人しかおらず、彼ら
(第30部隊)もシリアに入国したらすぐアルヌスラに武器を奪われてしまった。

http://tanakanews.com/150909turkey.htm
クルドの独立、トルコの窮地

 上記の件は以前の記事に書いたが、その後シリアに入国した第2派の第30
部隊は、入国直後にアルヌスラにすすんで投降し、米国からもらったばかりの
新しい武器も全部渡してしまった。彼らの中の司令官は「米国製の武器を得る
ため、最初から寝返るつもりで米国の募集に応じた」と言っている。米国の対
シリア戦略は完全に破綻している。

http://www.rt.com/news/316247-us-syrian-rebels-surrender-nusra/
Capture or betrayal? US-trained Syrian rebels with weapons end up in hands of Nusra jihadists

http://news.antiwar.com/2015/09/22/new-us-trained-rebels-in-syria-gave-their-weapons-to-al-qaeda/
New US-Trained Rebels in Syria Gave Their Weapons to al-Qaeda

 米国がこんな無能ないし茶番な策を延々と続けている以上、中東はいつまで
も混乱し、何百万人もの難民が発生し、彼らの一部が欧州に押し寄せる事態が
続く。このままだと、ISISがアサド政権を倒してシリア全土を乗っ取り、
シリアとイラクの一部が、リビアのような無政府状態の恒久内戦に陥りかねな
い。米国に任せておけないと考えたプーチンのロシアが、シリア政府軍を支援
してISISを倒すため、ラタキアの露軍基地を強化して駐留してきたことは、
中東の安定に寄与する「良いこと」である。加えてプーチンが、自国軍だけで
なく国連軍を組織してISISと戦うことを国連で提案することは、国連の
創設以来初めて、ロシア(というより米国以外の国)が、自国の国益を越えた、
世界の安定や平和に寄与する方向で、国連軍の組織を提案したものであり、
画期的だ。

http://larouchepac.com/20150914/larouche-most-momentous-weeks-modern-history-we-must-now-take-moment
LaRouche: 'Most Momentous Weeks in Modern History

http://buchanan.org/blog/putin-friend-or-foe-in-syria-124083
Putin: Friend Or Foe In Syria?

 シリアではすでにイランが、アサド政権を支援しつつISISと戦っている。
ロシアはイランと協調してシリアに進出した。イランは、イラクの政府軍や
シーア派民兵、レバノンのシーア派民兵(ヒズボラ)を支援してISISと戦
っているが、その担当責任者であるスレイマニ司令官(Qasem Soleimani)が
7月にロシアを訪問してプーチンらと会い、シリアでの露イランの協調につい
て話し合っている。米軍筋は、7月のスレイマニ訪露が、ロシアのラタキア進
駐にとってとても大事な会合だったと分析している。

http://www.wsj.com/articles/russia-iran-seen-coordinating-on-defense-of-assad-regime-in-syria-1442856556
Russia, Iran Seen Coordinating on Defense of Assad Regime in Syria

http://www.zerohedge.com/news/2015-09-22/pentagon-warns-russia-iran-nexus-syria-we-assume-russia-coordinating-iranians
Pentagon Warns Of Russia-Iran "Nexus" In Syria: "We Assume Russia Is Coordinating With The Iranians"

 ロシアはその後、米議会がイランとの核協約を阻止できないことが確定的に
なった8月下旬まで待って、ラタキア進駐を開始した。米議会がイラン協約を
阻止し、米国がイランを許さない状態のまま、ロシアがイランを助けることに
なるラタキア進駐を挙行すると、米国のタカ派にロシアを攻撃する口実を与え
ることになるので、ロシアは8月末まで待った。

http://tanakanews.com/150808syria.php
イランがシリア内戦を終わらせる

http://tanakanews.com/150721iran.htm
対米協調を画策したのに対露協調させられるイラン

 露軍のラタキア進駐に関して、イランも米国も、事前に察知していなかった
と政府が言っているが、両方とも大ウソだ。シリアの外相は、ロシアとイラン
は軍事的に密接に協調しつつ、シリアを守っていると述べている。ロシアはラ
タキアがある地中海岸を中心にISISと戦い、イランはシリアの首都ダマス
カスや、傘下のヒズボラが守るレバノン国境沿いに展開して戦っており、地域
的な分担もできている。

http://www.ft.com/cms/s/0/da2bc14e-61e2-11e5-9846-de406ccb37f2.html
Russia's Syria build-up takes Iran by surprise

 また、米国のケリー国務長官は、今春から何度もロシアを訪問してシリア問
題について話し合っており、ロシアがシリアの内戦終結やISIS退治に貢献
することを前から支持している。米国が露軍の進駐計画を事前に知らなかった
はずはない。8月末時点で、ロシアはシリア進駐を事前に米政府に通告したと
指摘されている。そもそも、露軍のシリア進駐を先に望んだのは、国内の軍産
複合体との暗闘で苦戦していたオバマの方だ。

http://www.presstv.ir/Detail/2015/09/21/430085/US-Syria-strategy-Daesh-ISIL-Takfiri-Russia-Bashar-alAssad
US never expected Russian deployment in Syria: Analyst

http://wakeupfromyourslumber.com/the-russian-army-is-beginning-to-engage-in-syria/
The Russian army is beginning to engage in Syria

 オバマはISISの掃討を望んだが、彼の命令で動くはずの米軍は勝手にこ
っそりISISを支援し続けていた。自国軍に頼れないオバマは、ロシアに頼
るしかなかった。米国がイラン制裁を解くことが、オバマの要請に対するプー
チンの条件だったのだろう。オバマがイランとの核協約を急ぎ、軍産に牛耳ら
れた米議会がそれを阻止しようとしたのも、ロシア主導のシリア(中東)安定
策を実現するか阻止するかの米国内の政争だったことになる。オバマのこれま
での動きからみて、米国はプーチン提案に拒否権を発動しないのでないかとい
うのが私の見立てだ。

http://tanakanews.com/150420iran.php
イランとオバマとプーチンの勝利

http://tanakanews.com/150406iran.php
イラン核問題の解決

 米軍(軍産)は、いまだにISISを支援している。露軍がラタキアに進駐
を開始した後、ISISの軍勢が露軍基地を襲撃し、露軍の海兵隊と戦闘にな
った。ロシアのメディアによると、露軍が殺したISIS兵士の遺体を確認し
たところ、露軍基地を空撮した精密な衛星写真を持っていたという。このよう
な精密写真をISISに提供しうるのは米軍、NATO軍、もしくはイスラエ
ル軍しかいない。軍産がいまだにISISを支援していることが見てとれる。

http://www.blacklistednews.com/Report%3A_Russian_Marines_Battle_ISIS_In_Syria%2C_IS_Possesses_%E2%80%9CSatellite_Imagery%E2%80%9D_Of_Base/46276/0/38/38/Y/M.html
Report: Russian Marines Battle ISIS In Syria, IS Possesses "Satellite Imagery" Of Base

 ISISがシリア政府軍の攻撃を事前に把握したり、政府軍の拠点を襲撃し
やすいよう、米軍がISISに精密な衛星写真をリアルタイムで供給してきた
ことを、ロシアは以前から知っていた。これに対抗し、ロシアが衛星写真をリ
アルタイムでシリア政府軍に供給することが、露軍のシリア進駐の目的の一つ
だったことは、以前の記事に書いた。

http://www.realjewnews.com/?p=1061
Putin's Master Stroke In Syria

http://tanakanews.com/150904syria.htm
シリア内戦を仲裁する露イラン

 ISISをめぐる軍産との暗闘で、オバマは最近、自分の政権でISIS掃
討の外交面の責任者だった元米軍司令官のジョン・アレン(John Allen)の辞
任を決めた。昨年秋、アレンをISIS掃討担当にしたのは表向きオバマ自身
だったが、アレンはISISをこっそり支援する米軍の「ペトラウス派」の一
員で、シリアの穏健派武装勢力を強化するために安全地帯(飛行禁止区域)を
シリア国内に作ること(穏健派などいないので実際はISISを強化する安全
地帯になる。もともとトルコの発案)を提案したり、ISISと戦うため米軍
の地上軍をシリアに派遣す(イラク侵攻と同様の占領の泥沼にはまる)べきだ
と提唱したりしてきた。いずれの案も、しつこく提案したがオバマに却下され
ている。

http://www.activistpost.com/2015/09/isis-czar-stepping-down.html
ISIS Czar Allen Stepping Down Amid Second Scandal, Support For ISIS

 ペトラウス派とは、元米軍司令官、元CIA長官のデビッド・ペトラウスを
頭目とする派閥で、米軍内でこっそりISISを支援する勢力だ。ペトラウス
自身、シリアに(ISISが強くなれる)飛行禁止区域を作るべきだと言い続
けている。だが、上記のジョン・アレンの辞任は、オバマ政権に対するペトラ
ウス派の影響力の終わりを意味すると指摘されている。オバマは、ペトラウス
派を追い出すことで、軍産がISISを支援できないようにして、ロシアをこ
っそり支援している。

http://www.presstv.ir/Detail/2015/09/23/430347/Petraeus-Obama-strategy-ISIL-Iraq-Syria
David Petraeus calls for safe havens of militants in Syria

 ペトラウス派やトルコ政府が飛行禁止区域を作りたがったシリアのトルコ国
境沿いの地域では今、クルド軍(YPG)がISISを追い出している。
ISISは従来、トルコとシリアを自由に行き来することで、トルコの諜報機
関から補給を受けて力を維持していたが、両国間の越境ルートは一つをのぞい
てすべてクルド軍が押さえ、クルド軍は最後の一つ(Jarabulus)を攻略しよう
としている。事態は、ISISの敗北、トルコの窮地、クルドの勝利に向かって
いる。クルド人が対トルコ国境に自治区(事実上の独立国)を作ることは、ア
サド政権も認めている。

http://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/syrian-kurdish-leaders-planning-to-capture-last-border-crossing-with-turkey-held-by-isis-10511666.html
Syrian Kurdish Leaders Planning to Capture Last Border Crossing with Turkey Held by Isis

 トルコの権力者エルドアン大統領は先日、モスクワを訪問し、シリア問題に
ついてプーチンと会談した。エルドアンの訪露は、シリアに対するロシアの影
響力の急伸を意味している。米国が安保理で拒否権を発動してシリアに駐留し
たロシアが孤立するなら、エルドアンが急いで訪露する必要はない。

http://rbth.com/international/2015/09/23/press_digest_middle_eastern_leaders_flock_to_moscow_for_talks_w_49503.html
iddle Eastern leaders flock to Moscow for talks with Putin

http://www.themoscowtimes.com/news/article/middle-east-leaders-line-up-for-putin/535110.html
iddle East Leaders Line Up for Putin

 もう一人、エルドアンと前後して急いで訪露した権力者がいた。イスラエル
のネタニヤフ首相だ。イスラエルは、以前からゴラン高原越しにシリアを砲撃
しており、今後も攻撃を続けるとロシアに伝え、相互の戦闘にならないよう連
絡網を設けるためにネタニヤフが9月21日に日帰りで訪露してプーチンと
3時間会談したと報じられている。だが、その手の話だけなら、首相と大統領
の会談でなく、国防相や実務者の会議でいいはずだ。

http://www.israelhayom.com/site/newsletter_article.php?id=28401
With eyes on Syria, Netanyahu meets with Putin in Moscow

http://english.pravda.ru/news/world/21-09-2015/132052-israel-0/
Israel fears to clash with Russian army in Syria

 オバマの米国が中東で傍観の姿勢を強め、米国の黙認を受けてロシアがシリ
アに駐留し、イスラエルの仇敵であるイランに味方してアサドをテコ入れし、
軍産が涵養したISISを潰そうとしている。ロシアを後見人として、中東に
おけるイランの影響力が拡大している。ネタニヤフは、プーチンに「イスラエ
ルの安全を守る気はあるのか」と尋ねたに違いない。プーチンは「イスラエル
の懸念は理解できる。シリア(やイラン、ヒズボラ)がイスラエルを攻撃する
ことはない」と答えた。ネタニヤフがアサド政権の継続やISISとアルカイ
ダの掃討を容認するなら、ロシアはイランやヒズボラやアサドがイスラエルを
攻撃させないよう監視するという密約が結ばれた(もしくは再確認された)の
でないかと考えられる。

http://tass.ru/en/politics/822462
Putin: Syria does not intend to fight with Israel

http://www.haaretz.com/news/diplomacy-defense/1.677027
Netanyahu: Israel, Russia to Coordinate Military Action in Syria to Prevent Confrontation

 ロシアとイスラエルは、シリアでの活動を相互に報告して協力する協議会を
設置した。この協議会には、ロシアと並んでシリアで活動するイラン軍の司令
官も出席するかもしれない。ISISなどテロ組織が掃討された後、この協議
会は、ロシアがイスラエルとイラン、シリア、ヒズボラとの停戦(和解)を仲
裁する機関になりうる。イスラエルにとって、自国の安全を維持してくれる国
が、米国からロシアにすり替わりつつある。

http://www.haaretz.com/news/diplomacy-defense/.premium-1.677080
Israeli, Russian Armies to Form Joint Committee on Syria Actions

http://tanakanews.com/141121israel.php
イスラエルがロシアに頼る?

 国連安保理で、プーチンの提案に対して米国が拒否権を発動した場合、ロシ
アは孤独な闘いを強いられそうだが、実はそうでない。露軍のシリア進駐は、
コーカサス、中央アジア諸国から中国(新疆ウイグル自治区)にかけての地域
でISISやアルカイダがはびこることを防ぐための「テロ戦争」として行わ
れている。ロシア軍は「CSTO軍」としてシリアに駐留している。CSTO
は、ロシア、中央アジア(カザフスタン、キルギス、タジキスタン)、ベラル
ーシ、アルメニアという旧ソ連諸国で構成される軍事同盟体だ。

http://www.voltairenet.org/article188763.html
The CSTO arrives in Iraq and Syria

 CSTOの兄弟組織として、CSTOに中国を加えたような構成になってい
るSCO(上海協力機構)がある。中国の新疆ウイグル自治区からは、数百人
のウイグル人が、タイやトルコを経由してシリアに入り、イスラム戦士(テロ
リスト)としてISISに参加している。トルコ国境近くのシリア国内で、
ISISが占領して村人を追い出した村(Jisr-al Shagour)に、ウイグル人を
集めて住まわせる計画をISISが進めていると報じられている。この計画が
進展すると、中国の新疆ウイグル自治区で、イスラム戦士をこっそり募集する
動きが強まる。中国政府は、シリア政府が望むなら、この計画を潰すためにロ
シア主導のISIS退治に軍事的に参加することを検討すると表明している。

http://blogs.timesofisrael.com/if-assad-asks-china-can-deploy-troops-to-syria/
If Assad asks, China can deploy troops to Syria

http://tanakanews.com/140814uyghur.htm
ウイグル人のイスラム信仰を抑圧しすぎる中国

(上記の、シリアにISISのウイグル村を作る計画の黒幕は、以前からウイ
グルの独立運動をこっそり支援してきたトルコの諜報機関だと、イスラエルの
メディアが報じている。トルコの諜報機関は、8月にタイのバンコクで起きた
ヒンドゥ寺院(廟)の爆破テロの実行犯を支援していた疑いもある。トルコの
AKP政権は、ISISとの戦いでクルド人が伸張して与党の座をずり落ちか
けているので、政権維持のために意図的に混乱を醸成している)

http://www.reuters.com/article/2015/09/21/us-turkey-politics-support-idUSKCN0RL1Q620150921
As Turkish election looms, Erdogan presses pro-Kurdish opposition

http://tanakanews.com/150909turkey.htm
クルドの独立、トルコの窮地

 ロシアだけでなく中国もISIS掃討戦に参加するとなると、これは上海機
構のテロ戦争である(もともと上海機構は911後、中国と中央アジアのテロ
対策組織として作られた)。中露はBRICSの主導役でもあるので、
BRICS(中露印伯南ア)も、このテロ戦争を支持しそうだ。中国が主導す
る発展途上国の集団「G77」(134カ国)も賛成だろう。G7以外の多く
の国が、プーチン提案を支持することになる。

http://en.wikipedia.org/wiki/Group_of_77
Group of 77 - Wikipedia

http://tanakanews.com/120414brics.htm
覇権体制になるBRICS

 ロシア軍のシリア進駐に対しては、欧州諸国も支持し始めている。ドイツの
メルケル首相やショイブレ財務相が賛意を表明したし、オーストリアの外相は
イランを訪問し、シリアの内戦終結のための交渉にアサド政権も入れてやるべ
きだと表明した。これらの発言の背景に、シリアに対するこれまでの米国主導
の戦略が、200万人のシリア人が難民となり、その一部が欧州に押し寄せる
という失敗の状況を生んでおり、好戦的で非現実的な米国でなく、中東の安定
を模索する現実的なロシアと組んで、シリア危機の解決に取り組む方が良いと
いう現実がある。欧州は、ISIS掃討に関するプーチンの提案に賛成だろう。

http://www.presstv.ir/Detail/2015/09/13/428929/Merkel-Germany-Russia-US-Steinmeier-de-Mistura-Lavrov-Daesh-Syria
Western Europe needs Russia to solve crisis in Syria: Merkel

http://english.pravda.ru/news/world/14-09-2015/131951-germany-0/
German Finance Ministry calls on West to cooperate with Russia

http://www.yahoo.com/digest/20150908-P0500/austria-joins-growing-voices-say-assad-must-part-syrian-solution-10993549
Austria joins growing voices that say Assad must be part of Syrian solution

 ロシアは、シリアに軍事駐留するだけでなく、テロリストをのぞくシリアの
各派とアサド政権をモスクワに集め、内戦の終結をめざす外交交渉も以前から
仲裁している。プーチンは、シリアの内戦を解決したら、次はリビアの内戦終
結も手がけるつもりかもしれない。その布石なのか、プーチンは今年、リビア
の隣国であるエジプトの(元)軍事政権と仲良くしている。すでに書いたよう
に、ロシアはイスラエルとイランの和解も仲裁し得る。先日は、パレスチナの
アッバース大統領もモスクワを訪問しており、イスラエルがその気なら、パレ
スチナ問題もロシアに仲裁を頼める。

 これらのロシアの動きの脇には、経済面中心の伴侶として中国がいる。シリ
アをめぐるプーチンの国連での提案は、世界が米国覇権体制から多極型覇権体
制へと転換していく大きな一つのきっかけとして重要だ。プーチンの提案に対
し、米国が拒否権を発動したら多極型への転換がゆっくり進み、発動しなけれ
ば早く進む。どちらの場合でも、米国がロシアと立ち並ぶかたちでシリア内戦
の解決やISIS退治を進めていくことはないだろう。米国が入ってくると、
流れの全体が米国流の過激で好戦的な、失敗する方向に引っ張られる。国内で
軍産と暗闘するオバマは、そんな自国の状況をよく知っているはずだ。オバマ
は、米国を健全な覇権国に戻すのをあきらめ、世界を多極型に転換させること
で、世界を安定させようとしている。

http://tanakanews.com/150317russia.php
茶番な好戦策で欧露を結束させる米国

http://tanakanews.com/141118russia.htm
プーチンを怒らせ大胆にする

http://tanakanews.com/150626ordeal.php
世界に試練を与える米国

 露中やBRICSにEUが加わり、イスラエルまでがロシアにすり寄って、
中東の問題を解決していこうとしている。米国は傍観している。そんな中で日
本は、軍隊(自衛隊)をこれまでより自由に海外派兵できるようにした。安倍
政権や官僚機構としては、対米従属を強化するため、米国が望む海外派兵の自
由化を進めたつもりだろう。しかし、この日本の動きを、世界を多極型に転換
していくプーチンのシリア提案と重ねて見ると、全く違う構図が見えてくる。

 プーチンが日本に言いそうなことは「せっかく自由に海外派兵して戦闘でき
るようにしたのだから、日本の自衛隊もシリアに進駐してISISと戦ってく
れよ。南スーダンも良いけど、戦闘でなく建設工事が中心だろ。勧善懲悪のテ
ロリスト退治の方が、自衛隊の国際イメージアップになるぞ。昨年、貴国のジ
ャーナリストが無惨に殺されて大騒ぎしてたよね。仇討ちしたいだろ?。ラタ
キアの滑走路と港を貸してやるよ。日本に派兵を頼みたいってオバマ君に言っ
たら、そりゃいいねって賛成してたよ。単独派兵が重荷なら、日本と中国と韓
国で合同軍を組むとかどう?」といったところか。

 この手のお招きに対し、以前なら「米国にいただいた平和憲法がございます
ので、残念ながら海外での戦闘に参加できません」とお断りできたのだが、官
僚と安倍の努力の結果、それはもうできなくなった。対米従属を強化するはず
の安倍政権の海外派兵策は、米国が傍観する中、ロシアや中国に招かれて多極
化に貢献する策になろうとしている。今後、世界が多極化するほど、この傾向
が強まる。8月の記事「インド洋を隠然と制する中国」の末尾でも、このこと
を指摘した。

http://tanakanews.com/150820china.htm
インド洋を隠然と制する中国

 ISISは、米国が涵養した組織だ。ロシアは、ISISと戦う義理がない。
それなのにロシアはISISとの戦いをかって出ている。軍港ラタキアの保持
とか、シリアや中東を傘下に入れる地政学的な野心とか、ロシアには国際的な
強欲さもあるが、シリアに進軍してISISと戦うリスクは、それらの利得を
上回っている。シリア人の多くは今、アサド政権を支持しており、ロシアが
アサド政権を支援することを歓迎している。ロシアは世界の平和と安定に貢献
している。えらいと思う。

 反戦派の人々は「戦争をする人に、えらい人などいない。戦争反対。おまえ
は好戦派だ」と言うだろう。しかし、中東の多くの人々は、リスクをかけてラ
タキアに進軍してISISと戦い始めたロシアに感謝している。そもそも日本
国憲法は、対米従属の国是を暗黙の前提にしている。米国の覇権が衰退してい
る今、護憲派はこの点をもっと議論しないとダメだ。自衛隊がラタキアに行く
べきだとは思わないが、ロシアには敬意を表するべきだ。



この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/150924syria.htm




●最近の田中宇プラス(購読料は半年3000円)

◆不透明が増す金融システム
http://tanakanews.com/150921bank.php
【2015年9月21日】 米連銀が利上げできないことがわかり、米国の債
券金融システムやドルが健全性を取り戻すことが難しいとわかった。米連銀は
行き詰まっている。だが、しかし一直線で金融が崩壊に向かうわけでもない。
新興市場から逃避した資金で、米国債の利回りが低下している。米国債は簡単
に崩れない。事態が不透明になり、方向感が失われている。金融当局や金融界
は、金融システムが行き詰まるほど、人々に行き詰まりを感じさせないよう、
統計や報道をごまかし、事態はいっそう不透明になる。不透明さの増大は、危
機が増していることを意味している。

◆英国に波及した欧州新革命
http://tanakanews.com/150917uk.php
【2015年9月17日】 コルビンが英労働党首になった。彼の登場は、英
国が、米国覇権の黒幕として世界を支配して繁栄を維持する従来の(すでに機
能不全に陥って何年も経っている)国家戦略を放棄し、米英同盟を重視しなく
なり、代わりに新革命に参加して欧州で大きな力を持つことで、今後の米国覇
権崩壊後の多極型世界を生き抜く道を模索し始めたことを意味している。

◆行き詰る米日欧の金融政策
http://tanakanews.com/150907qe.php
【2015年9月7日】 日本も欧州も、買える債券が減っているのでQEを
拡大できない。欧州より日本の方が無理をしており、供給不足からQEが限界
に達し、縮小する必要が出てきている。そこに、中国など新興市場の米国債売
り(ドル離れ、QT)が加わっている。そんな中で、米連銀が自分だけを健全
化しようと利上げや保有債券の縮小を画策している。IMFが連銀を「利上げ
するな」「しても短命に終わる」と諭すのは当然だ。米連銀は、利上げするか
どうかでなく、逆にQE4を開始するかどうかを検討しなければならない状態だ。
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