2013年12月16日月曜日

【国連への公開書簡】>>>中央アフリカ共和国での活動

MEDECINS SANS FRONTIERES 国境なき医師団

国連人道問題担当事務次長兼緊急援助調整官
バレリー・アモス様
2013年12月12日
ジュネーブ
この公開書簡をもって、国境なき医師団(MSF)は、過去1年間に中央アフリカ共和国(以下、中央アフリカ)でなされた国連の人道援助体制の許容しがたい対応に対し、深い憂慮を表します。
2012年12月、この国で反政府勢力による最初の攻撃が首都バンギから数km離れたところで収まった時、国連職員の大半は既にバンギと各活動地から避難した後でした。その後、クーデターから6ヵ月後に、国連はようやく首都圏外に再展開し、その姿勢は漠然とした治安上の懸念によって正当化されました。緊急対応の調査は10月まで行われませんでした。過去3ヵ月、そしてバンギではわずか数日前に緊急事態が拡大する中、度重なる暴力行為の被害者に対する適切な人道的対応は確認されていません。国連職員がとった行動は、戦闘に関するデータの収集と、即時対応の必要性を認めた数回の調査報告のみでした。目を覆うばかりのニーズを前に、ただ繰り返された調査と数々の調整会議は、主な紛争地帯周辺での具体的な行動には結びつきませんでした。
この状況は最近起きた2つの事例によく表れています。MSFは、バンギの空港周辺に避難してきた1万5000人余りを対象とした食糧、テント、石けんの配布を、繰り返し国連機関に要請しましたが、反応はありませんでした。ボサンゴアで、安全のため中部アフリカ多国籍軍(FOMAC)の宿舎に待避していた国連の援助職員は、同じ敷地内に避難してきた人びとにさえ援助を提供せず、やむなくMSFが再び活動に乗り出しました。ボサンゴアでの戦闘後も、国連は数日間安全のため待避を継続し、ボサンゴアの主要な避難キャンプにいる合計3万人以上が援助を受けられなくなったため、MSFとNGO「飢餓に対する行動(ACF)」のチームが市内を巡回して緊急援助を行いました。
過去数ヵ月間、この国の危機に関する国際社会の認知は向上してきましたが、2013年9月初旬以降、経験豊富な援助従事者の追加派遣や、質量ともに適切な緊急対応の開始は見られず、ボサンゴア周辺に滞在する避難民数万人の劣悪な生活環境は改善していません。何ヵ月もの間、援助がほぼ拡大されていないということは、給排水や衛生設備などの援助をすぐにも必要とする避難民の期待に背くものです。必死な一般市民がこのような緊急事態の状況の中で最低限必要とするものさえ提供されていないのです。
 最低基準現状
飲料水15~20リットル(1人/1日)7.8リットル(1人/1日)
トイレトイレ1基/利用者20人トイレ1基/利用者166人
シャワーシャワー1基/利用者40人なし
国連内部でも、人道対応の統率力が弱いことや危機への反応力がないことなど、対応の改善が喫緊の課題であると認識されていますが、国連のとった措置と活動に目に見える変化はありません。むしろ、2014年1月にようやく始まる緊急人道援助プログラム(100日計画)の策定の議論に長い時間を費やしたため、疲弊して満身創痍の中央アフリカの人びとを、援助がはじまるあてもないままの状況に置いてきました。この計画の完全実施は数週間どころか数ヵ月かかる見通しです。
状況をさらに悪くすることに、国連の諸機関の間と、MSFスタッフと国連職員の間とには治安に関して大きな認識の隔たりがあるように思われます。後者の場合は、極端なリスク回避志向の状況分析の根拠を示そうともしないのです。援助機関が中央アフリカで直面している脅威への見方がゆがんでいることは、国連職員が軍事用ヘルメットと防弾チョッキを着けていることにも表れています。現地はそのような防具を必要としないし、これが極度の欠乏状態にある人びとに対する援助の制限を意味しているとしたら、許容してはならないものです。MSFは同国に今も残る危険性を軽視はしないものの、治安に対する国連の懸念は現場の現実とは不釣り合いだと考えます。しかし国連機関はそれらの懸念を、必要かつ適時の援助拡大を延期する理由にし続けています。総括すると、このように周辺環境から隔離された状態にいることは、国連機関とその共同実施者の信用を損ね、その権威を失墜させて将来の活動を危機にさらすだけでなく、中央アフリカ全体への保護と援助活動にマイナスの影響を与えるだけです。
現地住民の苦難軽減のために、遅滞なく援助活動を拡大する必要性の喚起と、バンギ市外への再展開への主張以外に、MSFは国連人道援助機関の拙劣な対応を非難します。そして効果的かつ人道の原則に基づいた行動を起こし、欠乏状態にある人びとの権利を擁護し、現在の危機に対して持続可能な解決策の促進という責務を全うするよう求めます。国連上層部は、国連内部による独立した調査も検討して、今回の失態の理解に努め、将来その教訓が生かされるよう徹底するべきです。
緊急人道援助対応には危険がつきものですが、MSFはこの1年間、外国人スタッフによる対応拡大は実現可能だと証明してきました。MSFとて数回の事件を経験したものの、活動の完全な中断にはいたらず、新たな援助活動をより的確な医療援助につなげることを通じて、暴力に荒れた国内の中で最も深刻な状況にあった地域のうち6ヵ所で、活動を拡大してきました。しかし、MSFのほか中央アフリカで活動する力がある少数の他団体による活動は重要であるものの、全てのニーズに対応することは不可能です。国連機関は現地に展開する態勢を増強する必要があります。多くの援助機関は活動するにあたってその庇護に頼っているからです。
CC: ユニセフ事務局長 アンソニー・レイク
国連世界食糧計画(WFP)事務局長 アーサリン・カズン
世界保健機関(WHO)事務局長 マーガレット・チャン医師
国連難民高等弁務官 アントニオ・グテーレス
国連安全・治安担当国連事務次長 ケビン・ケネディ
MSFを代表して

ジョアンヌ・リュー医師
MSFインターナショナル会長
国境なき医師団(MSF)

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